■出張版あとがき
はじめまして。あるいはお久しぶりです。
本作は、人里に生まれ育った普通の少女・霧雨真理沙が魔法使いの魔理沙を経て、普通の魔法使い霧雨魔理沙を名乗るようになるまでの、彼女の過去と出会いと別れを描く当サークル27冊目のSS本にして3冊目のオフセット本になります。
本にあとがきが載らなかったのは、ぶっちゃけまして単純にスペース的な問題なのですが、読後感を考えるにあれはあれで良かったのかなとも思うところです。この形であとがきを記載するのは初めてであり、スペースに制限もなく、あえて語らずに済ませた部分の多いお話なので、後の方ではしたなくも自己作の解説とかしてみたいと思います。
旧作とWin版の間で大きくキャラクターを変えた魔理沙の過去については、これまでも多くのお話が発表されていますが、今回は拙作「虹と私は離れて遠く」でアリスに試みたように、自分なりに魔理沙の送ってきた人生を考えることで、彼女の魅力を描いてみようという試みでした。
そのため魔理沙にはだいぶ辛い目にあわせてしまっただけでなく、現在よく知られている、普通の魔法使い・霧雨魔理沙としての彼女の活躍はほとんど描くことができず、ちょっと申し訳ない気分もあります。
本作のタイトル、「恋ふ」は、異性に恋するという意味と同時に心が引かれる。慕い思う。なつかしく思うというあたりの意味合い。魔理沙と魅魔様、二人の「霧雨の魔女」の絆を描くお話でありました。
ただの人間の魔法使いでしかない魔理沙が、「幻想郷の巫女」である霊夢と並ぶ自機である理由は、彼女の送って来た人生、過去の出会いや別れといったバックボーンにこそあるのじゃないかと思いました次第で作ったお話でした。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
表紙には東方影絵体をお借りいたしました。
今回も発刊にあたり、いつもながら白身氏、Riza氏には様々な形でお世話になりました。この場を借りてお礼をさせて頂きます。
――それでは。
また次の機会にお会いできることを願って。
◆以下、読後感台無しの本編ネタバレについて語ります。
半分以上自画自賛みたいなもんですので、こらアカンと思った人はそっとブラウザを閉じて頂けると幸い。
よろしければ続きをどうぞ。
↓この先一光年
◆魔理沙
本作の主人公。原作に比べて乙女度五割増しな印象。霧雨“真”理沙の名前は二次創作とかでは割と見るように思いますが、霧雨の家では魔法が疎まれていることから、少なくとも「魔」の字は娘に付けないよなあと判断してこうなりました。
魔理沙が字が読めない、という設定は初稿の後に思いついた部分で(それまでは単に魔道書が読めないという設定でした)、インパクト重視で採用しましたがそのせいで細かい部分の整合性が危うい感じに。
なお、彼女が読める文字のうちの一つが母へのあこがれの象徴でもある「魔法」という字ということになっております。
金髪については地毛で母親からの遺伝という設定に。赤毛だった時期を踏まえてもう少し掘り下げる手もあったかなと考えたりしています。……誰か和田慎二先生の名作のパロディで「金色の髪の魔理沙」とかやってくれませんかねえ。
口調についてはわんぱくさとわがままなお嬢様の折衷案でああなりました。割と好評なようで嬉しい限りです。
作中に限らず、自作における魔理沙は魔法使いとしては極めて凡庸な才能しか持っていないと考えています。ただし魔法薬の調合と精製に関しては並みの魔法使いよりずっと習熟しており、普段の生活の大半を掛けて用意した魔法薬を、異変や命名決闘に惜しげもなく注ぎ込んで今の自機としての立場を確立しているイメージ。もっともグリマリ含む各種設定資料や原作での上昇志向と尽きない興味で多くのことを学び試行錯誤して力を付けているのは間違いなく、将来性は無限大ではないでしょうか。
本編のラストはあのような形となりましたが、この後も魔理沙は自分の恋心を取り戻せたわけではなく、本当の恋というものがわからないままwin版の「現在」に至ります。少年めいた言動をしながら、たまに対象を限定しない乙女属性が炸裂するのはこのあたりが要因という想定です。
エピローグでは魔理沙は並の魔法使い以上に読み書きにちゃんと習熟しておりますが、引越し&魔法店開店のメッセージだけだと少しわかりにくかったかなあと後悔。
◆魅魔様
本作のもう一人の主役。魔理沙にとっての近くて遠い他人として、物語の裏にあるバックボーンについてはまったく言及していないように描写したつもりなんですが、筆力が追い付かずにただの素っ気無い性格になってしまったような。
作中では明言は避けましたが、魔理沙の曾々祖母か曾々々祖母に当たるくらいの血縁です。封印された魔法の森の石碑(魔理沙と出会う場所)から離れることができなくなっており、森の悪霊と呼ばれている設定。魔理沙を使い魔にしたのは彼女を通じて森の外の様子を探るためでもありました。魔理沙に対しては愛憎懐旧入り混じった複雑な感情を持っている……つもりだったんですが書ききれなかった感がひしひしと。
冒頭の英文はシェイクスピアの「あらし」の一節です。初めて読んだときにまさに魅魔様のイメージだなと思っていたので引用させていただきました。”His”を”Her”に改変するかは結構悩んだのですが原文のまま引用しました。
ユウゲンマガンの能力描写は魔術師オーフェンのディープ・ドラゴン種族の暗黒魔術(草木や岩などの無生物にまで有効な精神支配)をモデルにしております。魔理沙を使い魔にする等の設定も実はこのへんが由来。
魅魔様と魔理沙の過去の関係性において、多くの場合は二人の別離が重要なターニングポイントとなるのではないかと思うんですが、ぶっちゃけ、魅魔様と魔理沙の別れとなるラストの一言が書きたいがゆえにこの話を書いたと言っても過言ではありません。魅魔様の代名詞ともなったあのセリフですが、忘れないで欲しいという願いと共に、ずっと見守っているという親心のようなものを感じるのは私だけではないと思います。
なお「恋心を去勢した」のくだりは、岡田芽武の「朧」のオマージュ。以前に別作品でもお借りしたんですが、あの作品は本当に神がかってて凄いのでみんな読むべき。
……蛇足ながら捕捉しておくと、魅魔様は意図的に魔理沙の心を弄ったわけではなく、魔理沙を使い魔として力を与えたことの弊害として起きたことをあえて自分の企みだったと言っている状況。
◆魔理沙の母
深く設定まで決めてないんですが、なんとなく時代から取り残されて朽ちてゆく上古のエルフを意識して描写しました。世間の俗事とは無縁の存在で、森を離れて生きてゆくことはできず、お屋敷に幽閉されて以来、徐々に弱っていくだけ……というようなイメージです。
魅魔様の呪いによるチェンジリングとかがあったのではないでしょうか(他人事)。
◆魔理沙の父
今作では魔理沙のまえに立ちふさがる壁であり、魔理沙の小さな世界に君臨する絶対の支配者であり、少女の安寧を脅かす粗暴で暴虐な男性性の象徴であり、彼女が疎ましく思う閉塞感の象徴でもあります。それが錯覚であったことを魔理沙が悟るシーンは、魅魔様と出会う前のどこかに入れるべきだったのかな、とも。
婿入りした立場から、里の大店である霧雨の当主に、無理にでも相応しくあろうとしている一面がありますが、そのあたりを察するには魔理沙は少々幼すぎたのでしょうか。
魔法に対して激しい忌避をしているのには、霧雨の家の過去の事件もありますが、やはり魔理沙の母と何らかの確執があったのだろうと思います。これまた決めてませんが。
ちなみにWin版の時間軸である「現在」では、魔理沙と父の確執は長いわだかまりの後におおかた解消されていますが、まだしこりは残っているし、親戚や分家がそのあたりをかなり疎んじているという設定です。
◆寅吉、妙、多津ばあや他
名前付きオリキャラ一覧。お嬢様時代の魔理沙の日々にに必要な人間関係として登場してもらいました。妙ちゃんは多津ばあやの孫娘という設定があるんですが、あんまり本編では生きなかったですね。
寅吉の名前はなんかこう、タイガースファン的な感じになってしまって、せめて和寅とかのほうがカッコいいし良かったなあと後悔しています。きっと一人前になって独立したらそう名乗るのでしょう。
野暮な話ですが、寅吉が事件のあと魔理沙と距離をとり、早々に丁稚に出たのは、命を助けて貰った恩返しの意味もありますが、早く一人前になって店を任され、少しでも早く良い商人になって魔理沙を嫁に迎えたいという決意の表れでもあります。霧雨のお嬢様の命を助けようとしたことでその「本気」を霧雨の親父さんに見せつけ、条件を引き出したという裏話です。
◆魔界行~アリスVS魔理沙
拙作のアリス長編「虹と私は離れて遠く」でちらりと触れた、魔界時代のアリスが当時の魔理沙に手も足も出ずにやられた時の話。特にこれもかっちり守ってるわけではありませんが、基本的には自分の書いている話は大体同じ世界線のうえに存在しているものが多いです。
アリスはこの時の魔理沙の実力を「でたらめ」「チート」と評していますが、この時の魔理沙は魔界で活性化した魅魔様と深く同調し、魔神や悪魔と同様に生きた魔法となり、息をするように自然に超常現象を引き起こせた状況にあったため、あくまで魔法使いでしかないアリスには勝ち目がなかったという設定になります。この時の戦闘はまだスペルカード・ルールに基づく弾幕ごっこではないので、たぶん魔理沙は被弾したら死ぬような攻撃を結構直撃させられているんですが、即座に治癒・蘇生していたんじゃないかと。
「虹と私は~」に比べると戦闘描写は全体的に抑えめにした本作ですが、このあたりは魔理沙のやりたい放題ぶりが良く分かる展開です。
自作においては幻想郷の魔法使いは、それぞれに別のTRPGのシステムを当てはめて魔法様式を表現しているのですが、この時点でのアリスは六門世界(自動割込み機能付き、スペル枠を無尽蔵に提供するアリスの魔道書)、魔理沙はAの魔法陣(エースゲーム難易度)を想定しています。
◆魔理沙の年齢
自作における「現在」では、霊夢や魔理沙は13~15歳くらいを意識しています。Win版の白黒だぜ魔法使いスタイルで「巫女や魔法使いをやって長い」状態であり、win版第1作の紅魔郷から数年前が過ぎている感覚です。
公式では怪綺談から紅魔郷までそんなに時間が経ってないとされてますが、頒布間隔を意識して、怪綺談から西方projectを経由して紅魔郷までの間に1年半~2年ほど時間が空いているイメージです。香霖の独立時期とか星見観賞会とかの時期ににいろいろ矛盾が生じていますが、お許しください。
ともあれそのあたりを交えつつ魔理沙はこんな年齢設定になりました。人里は現代よりも成年になる年齢が早いと決めてはおりますが、本作の魔理沙は箱入りのお嬢様ゆえ現代っ子とそう変わらないイメージ優先です。
……そう考えると魔理沙の初潮が妙に早い気もしますが、たぶん霊夢よりは栄養状態が良いのと、神経系の魔法薬を日常的に摂取する魔法使いとしての生活と、魔女として力を得るために早く「女」になることが求められたゆえと解釈しております。
どうでもいいですがこれについては魔理沙の方が早いって作品割と見る気がしますね。
◆幽香
彼女についてもいつかじっくり時間とページを使って語りたいところなんですが、今回はあくまで事件の外から、魔理沙を面白がって揺さぶる意地悪なお姉さん役です。主人公以外で旧作とwin版をつなげる数少ないキャラの一人として、重要な役割となりました。
ひまわり妖怪のイメージが強い昨今ですが、元々は夢幻の領域に住んでおり、魔界で魔法を学べばあっさり修めると超人描写の多いところからして、その内側にはより奥深いものを抱えている印象があります。達観というか、メタ視点に近いものからものを言う立ち位置であることが多いのはそのせいかも。
◆霊夢
背景的には靈夢と書くべきなのかもしれませんが、大きな変化を描写する目的のあった魔理沙との対称性を表現するため、意図的に「霊夢」で統一しています。
魔理沙にとって空を飛ぶことは魔法の象徴であり、自分が何者にも縛られない自由であることの証と設定しているため、霊夢はまさにその魔理沙の理想である幻想郷の少女の代表として、憧れであり、目標であり、自分の劣等感の原因にもなりうる立ち位置です。
本編の結果として、魔理沙は霊夢に対して複雑な感情をもっている事になると思いますが、そんなものを乗り越えて一番の親友であるのだろうと思います。魔理沙も霊夢も、きっとそのへんは墓まで持っていく決意をしているのではないでしょうか。
そう言った意味でこれ以上ないほどのレイマリです。
霊夢との決闘は西方projectの秋霜玉あたりの時期ををイメージしております。魔理沙が羽根で飛んでたり、霊夢が一人で飛べるようになっていく過渡期として、旧作とWin版のミッシングリンクを結ぶ作品とさせていただきました。
博麗の巫女がどこからやってくるのかというのは難しいテーマですが、今回は敢えてそのへんは描写しませんでした。先代との血縁や出身地もぼかしておりますが、やはりイメージとしては外の世界を含めたどこかから、相応しい少女が選ばれてくるのではないかなと。
……玄爺は最初もう少し世話焼きだったんですが、亀の姿で霊夢の面倒を見させるのも難しく、書いてるうちに口喧しいだけで全然役に立ってくれない老人、という立ち位置が面白く思えてしまいあんな感じに。結果的に霊夢の孤高さが際立った気がしております。