既刊詳細/虹と私は離れて遠く

 

◆概要


・概要:文庫版348ページ
・会場頒布価格:800円
・表紙イラスト:キツネのデンパチ、(狐野デンパチとクレージー・フォックス)

2012/05/27(日) 平成24年博麗神社例大祭 き-39b 「折葉坂三番地」にて頒布。

 

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◆本文サンプル

 

 

 

七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。魔界出身、魔法の森在住。元・人間の魔法使い。
普通の魔法使い、霧雨魔理沙。人里出身、魔法の森在住。人間の魔法使い。

 

 

「いつか、完全に自律した人形を作るのが目標なんだっけな」
「自律、ですか? あの、アリスさん! お願いがあります!」
「……何かしら」
「その子、動かしてみてもいいですか?」

 

「そういうところが粗雑だっていうのよ。理論も機構も解りもしないものをよく使う気になれるわね」
「馬鹿にすんな。実験はちゃんとやってるぜ?」
「あなたのは単に事象の再現性を確認してるだけでしょう。同じ素材で同じ操作をして同じことが起こる。それを確かめるだけで止まってるのは解析とも理論とも言えないわ。その過程と機構を確定させず、理論構築に繋げないでいるのが信じられないって言ってるのよ」

 

「知らなかったわ。パチュリー、あなた、結構根に持つタイプなのね」
「物覚えが良くなきゃ魔法使いは務まらないもの。貸し借りはきちんと押さえておかないとね」

 

「その。正直に言うね。……私は、盟友の……魔理沙の力になりたい。……他の誰よりも、一番に。
その為には出来るだけいいものを作りたいんだ。……今回のことも、私一人じゃ無理だと思ったから、魔理沙にお願いして、手伝ってくれる人たちを紹介してもらったんだよ。二人にはいっぱい助けてもらっておいてその上でその、こんなこと言い出すのは、良くないって思ってるけど、でも……」
「……ええと、聞いていいのかどうかわからないけど、あなた、魔理沙の事――」
「うん……。好きだよ」

 

「私だって、いろいろ思うところがあるのよ、あなたには。……正直に言えばね、あの時あなたに二回も負かされて、悔しくて、恨めしくて……本気で、殺してやりたいと思ってたの」
「……おいおい、冗談きついな」
「恨んだのは確かだもの。自分が人間だって知って、ママが本当のママじゃないって分かって。それでも姉さん達に負けないように一生懸命魔法の勉強をして――立派な魔法使いになれたと思ったそんな矢先よ? いきなり魔界の外から、どこの馬の骨だかわからない怪しい魔女が乗り込んできて大暴れしてるっていうんだもの。それで、黙ってられないって自信満々で挑んだら信じられないくらいの完封、ボロ負けよ? 少しくらい文句も言いたくなるわ」
「あー…。まあ、昔の事だからな。忘れたけど」

 

 

 

「――なあ、アリス。
たったあれだけの時間で、お前はいったい何歳、歳をとったんだ?」

 

 

 

 間欠泉と共に湧きだした地霊の異変を契機に、二人の心はすれ違い――やがて決定的な事態を迎える。

 

 

「アリス! お前、前に自律人形作るのが夢だって言ってたじゃないか! 嘘なのかよ、あれはッ!」
「……嘘じゃ、ないわ」
「じゃあなんでだよ! あいつ、せっかく喋れるようになったのに! ちゃんと自分で、一人で動けるようになったんだぞ! それを、それをっ、どうして――っ!」
「……? 何を言ってるのかよく解らないわ」

 

「勝負しろ、アリス。一死七符だ」
「……いいわ。受けましょう」

 

「びびってんのか、本気で来いよアリス! これで詰まらない敗北宣言なんてしてみやがれ。お前の家も工房も、次がないくらい徹底的にぶっ壊してやる!」
「…………、あなた、正気?」
「当たり前だッッ!」

 

 

 

 そして、魔法使いの矜持をかけたスペルカード戦の果てに――

 

 

 

 ぱきん。
「え」
聞こえたのは、アリスの腕に深々とヒビが入った音だった。

 

「……お前、誰だ」
「あら。数年会わないくらいでもう忘れちゃうわけ、魔理沙? アリスよ」

 

「ふふ、魔理沙まで騙せてたなら、ちょっとしたものだったのかな。もうちょっといいタイミングで種明かしできたら面白かったんだけど――まあ、しょうがないか」

 

 

 

 これは、魔法使いと、アリスの物語。

 

 

「アリス。やめろ!」
強い叱咤に、びりびりとガラスが揺れた。
こんなにも強い言葉を魔理沙が放つのを、アリスは初めて聞いた。
魔理沙は眼を反らさない。アリスの胸倉を掴み上げたまま、一言一言を区切るように、
「自分のやってきた事を、否定するな。どんなに無駄でも、くだらなくても、叶わない夢に向かって努力するのは、馬鹿な事だなんて言うな。それを無意味だって言うのは、」
一息。
「私の魔法を、馬鹿にしてるってことだ」
魔理沙は赤くした目をそらさずに、じっとアリスを見つめてくる。
弾幕ごっこの時と同じだなとアリスは思った。魔理沙はずっと憤っている。けれど、それはアリスのためではない筈だった。いくら拒絶されても、罵声を浴びても執拗に食い下がってくる魔理沙の意図が、アリスには分からない。
「もう一度聞くぜ。このまま黙って消えてくつもりか? お前にはやることがあるんだろ」
「それも、その気持も夢も、全部――あいつに作られたものよ」
「始まりなんてどうだっていいんだ。私が聞いてるのは、今のお前の気持ちだ! アリス・マーガトロイド!」
叱咤のように、強い言葉は。
雫とともに、ぽたぽたとベッドの上に落ちる。